東京大学物性研究所 附属中性子科学研究施設

neutrons.issp

Neutron Science Laboratory, ISSP, University of Tokyo
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投稿者 : kawana 投稿日時: 2019-05-07 10:49:14 (179 ヒット)
東京大学物性研究所の萩原雅人博士研究員(現KEK特別助教)と益田隆嗣准教授らの研究グループは、鹿児島大学の真中浩貴助教らのグループと共同で、歪みのないカゴメ三角格子物質の磁気状態を観測することに成功しました。
 
三角形をモチーフとするスピン・フラストレーション格子では、数多くの安定状態が存在し、どのような状態が実現するかは自明でないため、大変興味を持たれています。このような研究では、格子歪みはフラストレーションを解消させ、分かりやすい形の状態が実現するため、歪みのない物質で研究を行うことが重要です。CsCrF4は、ヤーンテラー不活性なCr3+イオンが正三角形チューブを形成する物質(図1(a))として見いだされ、熱力学量の測定からはスピン秩序は存在せず、朝永・ラッティンジャー液体の可能性が指摘されていました。
 
今回、研究グループでは中性子回折を用いてミクロな磁気状態を観測することを試みました。その結果、予想に反して中性子回折プロファイルに磁気ブラッグピークが観測され、スピン秩序が存在することが明らかになりました。このことは、正三角形スピンチューブ間の弱い相互作用が安定状態の決定に重要な役割を果たすこと(図1(b))を意味します。結晶構造を見直すと、CsCrF4はカゴメ格子に三角形状の次近接相互作用を入れた“カゴメ三角格子(図2)”のモデル物質であることが分かります。実験で得られた中性子回折プロファイルを解析すると、三角形の頂点上のスピンのなす角度が120度となる構造(図3(a))であることが明らかとなりました。カゴメ三角格子の安定状態の計算を行ったところ、チューブ間相互作用のほかに、ジャロシンスキー・守谷相互作用と単イオン異方性を考慮することにより、実験で観測されたスピン構造が再現されました。これらにより、歪みのないカゴメ三角格子物質の磁気状態を初めて実験的に明らかにしました。
 
さらに詳細な中性子回折実験を行ったところ、2.8Kと3.5Kの間の狭い温度領域でスピンの大きさが変調するような新しい120度構造(図3(b))が存在することが明らかになりました。このことは、CsCrF4では複数の安定相が拮抗しており、微妙なエネルギー差により最安定相が選ばれていることを意味します。計算によると、立体的なスピン構造であるキューボック構造などが隣接する安定相として存在しており、圧力などによるパラメータ制御により多彩な相が出現することが期待されます。今後は、NMR、ESR、中性子非弾性散乱など様々な手法による有効スピンモデルの構築や、圧力・磁場等の外場による新しい状態の発見が期待されます。
 
本研究成果は、2019年4月23日に学術誌"npj Quantum Materials"にオンライン掲載されました。
 
"Magnetic states of coupled spin tubes with frustrated geometry in CsCrF4"
Masato Hagihala, Shohei Hayashida, Maxim Avdeev, Hirotaka Manaka, Hodaka Kikuchi, and Takatsugu Masuda,
npj Quantum Materials 4, 14 (2019)
 
図1:CsCrF4の結晶構造。(a)Cr3+イオンが結晶学的な軸方向に正三角チューブを形成している様子。(b)三角チューブ同士が弱く相互作用(J2)している様子。
 
図2:カゴメ三角格子。図1(b)のJボンドを大きくし、J2ボンドを小さくするとカゴメ三角格子になることがわかる。
 
図3:CsCrF4のスピン構造。(a)2.8K以下で出現する最安定構造。(b)2.8 Kと3.5 Kの間で出現するスピン構造。スピンの長さが変調している。

 


投稿者 : ohshima 投稿日時: 2017-12-13 11:02:21 (885 ヒット)

122,3日に福岡大学(福岡県福岡市)で開催された日本中性子科学会第17回年会において、中性子科学研究施設の益田准教授、吉澤教授、川名技術職員、杉浦技術職員、浅見技術職員、左右田元助教(現、理化学研究所)がグループの一員として第15回中性子科学会技術賞を受賞しました。この賞は、中性子科学の技術的発展への貢献が顕著である人、団体を称えるために設けられました。

受賞テーマは、「高分解能チョッパー分光器HRCの建設と中性子ブリルアン散乱法の実装」です。本グループは、J-PARCのパルス中性子源に高分解能チョッパー分光器HRCを設置し、物質のダイナミクスを高分解能かつmeVからeVにわたる広いエネルギー領域の探査を可能にするとともに、バックグラウンドの低減や試料環境・計算環境を整備した事により、世界標準の中性子非弾性散乱実験の機会をユーザーに提供しています。また、精密にコリメートされた中性子ビームと小角散乱検出器により低い運動量遷移領域における高いエネルギー遷移領域の測定を行う手法である「中性子ブリルアン散乱法」を実装し、単結晶の作製が難しい試料でも粉末試料を用いてガンマ点近傍(運動量遷移量がゼロの近傍)でのダイナミクス測定を可能にしました。

本グループは、HRCを世界トップクラスの中性子非弾性散乱装置として整備するとともに、中性子ブリルアン散乱法を実装し、研究成果によりその有用性を示したことが認められ、同賞の受賞に至りました。

J-PARCのパルス中性子源の性能を最大限に引き出すための継続的な高度化の成果であり、かつ中性子散乱の可能性を拡大するものであります。

    

 

 

左より伊藤KEK教授、川名技術職員、杉浦技術職員、益田准教授、左右田元助教

 


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