東京大学物性研究所 附属中性子科学研究施設

neutrons.issp

Neutron Science Laboratory, ISSP, University of Tokyo
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neutrons.issp

投稿者 : ohshima 投稿日時: 2017-04-13 13:58:48 (1576 ヒット)
 東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡准教授ら(バイオエンジニアリング専攻)と筑波大学医学医療系の岡本史樹講師ら(眼科学)の研究グループは分子量分布が極めて広くかつ多分岐の高分子クラスターを用いて、従来高分子ゲルを作成できない低濃度領域( < 1 wt%)において初めて高分子ゲルの作製に成功した。当該ゲルはゲル化臨界クラスターの広い分子量分布と多分岐構造に特徴をもつため、臨界クラスターゲルと呼ばれる。ハイドロゲルは90%程度の高い含水率を含む高分子材料で、生体組織との親和性が高いことから、生体内で使用する医療材料として嘱望されてきた。しかし、あらゆる生体材料と同じように、体内に埋め込まれたハイドロゲルは長期的には分解される運命にある。そして分解されて弱くなったハイドロゲルは周りの体液を吸い込み膨潤することが知られている。一般的なハイドロゲルは重量濃度が数wt%程度あるため膨潤圧は極めて高く、膨潤して体積が膨張したゲルは埋植した周辺組織へ重度なダメージを及ぼしてきた。今回新たに設計された臨界クラスターゲルは極めて低濃度領域で素早く作製することができ、分解された後も浸透圧が低い新たな種類のハイドロゲルである。このハイドロゲルは、細胞毒性が低いポリエチレングリコールの四分岐プレポリマーを基本ユニットとして、生体内で10分以内に作製される。このハイドロゲルは、ウサギの眼の中に注入してゲル化させると、強い毒性を示すことなく1年以上にわたって人工硝子体として機能し、網膜剥離治療に有効であることが確認された。このハイドロゲルはさまざまな医用用途の充填用生体材料として有望な候補となる。
東京大学物性研究所の柴山教授と李助教は臨界クラスターゲルの構造をオーストラリアのOPAL研究原子炉の小角中性子散乱装置QUOKKAを用いて調べ、臨界クラスターゲルはゲル化することにより内部に不均一構造が様々なサイズで連続的に存在することを発見した。臨界クラスターゲルが極めて低濃度でゲル化する要因はこの連続した不均一構造にあると考えられる。
本研究はNature Publishing GroupのNature Biomedical Engineeringに「Fast-forming hydrogel with ultralow polymeric content as an artificial vitreous body」として2017年3月9日にオンライン公開されました。

投稿者 : kawana 投稿日時: 2016-06-26 10:46:56 (1718 ヒット)

東京大学物性研究所の益田隆嗣准教授らの研究グループは、四面体の頂点にスピンが配置された物質において、熱力学の法則と一見矛盾する2つの安定的な状態を観測しました。絶対零度に近い極限まで温度を下げていくと、極低温で液体のようなスピン状態を発見し、法則が守られていることが確認しました。

スピンとは、粒子が持つ基本的な性質の一つで、上向きと下向きの異なる2つの状態が知られています。お互いが反対方向を向くような力が働いている場合、2つのスピンだけを考えればお互いが反対方向を向くことが最も安定的な状態(エネルギーの最も低い状態)です。しかし、この状態に3つ目のスピンが加えられて三角形の構造を作る場合、3つ目のスピンは上向きにも下向きにもなれるため、複数の安定な状態が可能です。このように3つ目のスピンが上向きにも下向きにもなれることをスピン同士のフラストレーションが生じたといいます。さらに正四面体の頂点に4つのスピンを配置した場合、より多くの安定な状態が存在しえます。

一方で熱力学の第三法則において、絶対零度(-273.15℃)では、物質は結晶内でたった一つの安定した状態に落ち着くと提唱されています。したがって、絶対零度で結晶中の四面体スピンに複数の安定な状態が実現することは、熱力学の第三法則と矛盾するという問題がありました。

研究グループは共同で、スピンにフラストレーションが存在する磁性体Ba3Yb2Zn5O11について、中性子を用いて物質内部の状態を調べました。すると、正四面体スピンが実現していることと、四面体の間の相互作用は小さくほぼ孤立していることが分かりました。さらに正四面体スピンは二つの安定状態を有しており、熱力学法則と一見矛盾していました。そこで真の安定状態を探したところ、絶対零度に近づくにつれてエントロピーが徐々にゼロに向かい、極低温では一つの状態が選択されることが確認されました。この状態は、スピンの間に秩序が存在しない新しいスピン液体状態であることが分かりました。

今回発見されたスピン液体状態には未知な点が多いですが、状態の詳細がさらに明らかにされれば、量子コンピュータに応用されることも期待されます。本研究は米国科学誌「Physical Review B(Rapid Communication)」の2016年7月1日号に公開されました。また、同誌のEditors’ Suggestion(注目論文)にも選ばれました。


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